スラムダンク全国大会編
湘北高校の初戦の相手は、大阪代表の豊玉高校だった。
試合結果は4点差で湘北の勝利。湘北は2回戦へ駒を進め、王者山王工業に挑む切符を手にした。
本記事では、惜しくも初戦で姿を消してしまった対戦校の豊玉高校を掘り下げたい。
私にとって、湘北VS豊玉はヒューマンドラマだ。
組織とは、チームとはどうあるべきなのか、作中で最も考えさせられるチームが豊玉高校だった。
そんな豊玉というチーム、主要メンバーの南烈や岸本実理を語る上で欠かせないキーワードが
「北野監督」と「ラン&ガン」だ。
この2つの観点から彼らを取り巻く環境を整理しつつ、彼らが何を思い、何を目指してバスケットをしていたのか、丁寧に紐解いていく。
もしあなたが豊玉高校をただのガラの悪いチームと認識しているなら、それは誤解だと伝えたい。
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豊玉と南と岸本と北野さん
南と岸本と北野さんの出会いは、少年時代までさかのぼる。
二人は北野監督が指揮をとる豊玉高校のプレイスタイルに憧れていた。
それが「ラン&ガン」だった。
「ラン&ガン」とはひたすら点を取りにいく攻撃的なスタイル
「高校の限られた時間で全部極めるは無理だ。だったら攻撃だけでもうまくなろう。
そのほうが楽しいんだ。バスケットを好きになってくれる。」
そんな北野さんの考え方や、優しい人柄に惹かれて、二人は豊玉高校に入学した。
それなのに、北野監督がクビになった。
自分たちの好きなバスケを教えてくれた恩師をクビにされた。
そこから彼らは、とにかくラン&ガンにこだわった。
ただ勝つのではなく、ラン&ガンで勝つ。
ラン&ガンが好きだから?
北野監督が好きだから?
最初はどちらもだっただろう。
だけどいつしか、その割合はだんだん後者に偏っていくのであった…
北野さんへの愛と「ラン&ガン」の呪い
南と岸本は、大きな決意を胸に秘めていた。
「ラン&ガンで結果を残す」
この信念は彼らも気づかぬ内に、自分達を苦しめる呪縛と化していた。
それがわかるのが試合中のタイムアウトのシーンだ。
「こんなとこで負けたら、、」
ここに続く言葉はきっと
「北野さんの正しさを証明できひんやろ!」
だろう。
ラン&ガンで全国ベスト4まで進んで、北野さんが間違っていないことを証明する。
ずっとその一心で頑張ってきた。
これは金平が新監督として就任し、ラン&ガンを捨てると宣言した直後のシーンだ。
一緒にいるのはおそらく同学年の矢嶋と岩田だろう。
北野さんの正しさを証明し、ひいては豊玉でまた監督をやってもらう。
その思いは南と岸本だけでなく、豊玉メンバーの総意であったようだ。
最後まで蚊帳の外だった金平監督すら認める勝利への執念は、その強い思いが生み出していたのだ。
相手選手を煽ったり、怪我をさせたりと、狂気的なまでに勝利を求めていた。
その執念の大きさは、北野さんへの愛の大きさだった。
呪縛を解いた北野さん
試合終盤、自身もチームも追い詰められた南の頭の中には、北野さんがいた。
南はずっと北野さんのことを考えていた。試合中も会場内を探していた。
南は集中力が散漫になり、無茶なプレーで流川に突っ込み負傷してしまう。
しかし、怪我の治療をしてくれたのは、なんと北野さんだった。あっけなく久しぶりの再会を果たす。
南はその場のやりとりで北野さんが小学校でミニバスのコーチをしていること、そこでもラン&ガンを教えていることを知る。
そして北野さんが去り際に一言。
「とりあえず楽しそうにやっとるわ」
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ここまでで、内容を一度整理したい。ひとつ念頭に置いて頂きたいのは
南と岸本が苦しんでいた呪いは、北野さんがかけたわけではない。
北野さんはただ、バスケットを好きになって欲しかった。
オフェンス8でディフェンス2の攻撃的スタイルの「ラン&ガン」は楽しいだろう?
楽しかったらバスケをもっと好きになる、そんなシンプルな考えだった。
二人の北野さんに対する愛が、クビにされた怒りが大き過ぎた。
自分たちの怒りがまるで怨念のように、自分たちを縛っていた。
その事実に気付けてなかった。
むしろこのやりとりで、南が自身にかけた呪縛を北野さんが解いてくれたのだ。
ゲームそのものを楽しむことを、もうずっと忘れてた。
それくらい、北野さんのためにバスケをしていたようだ。
手段と目的が逆転していたのだ。楽しむことが大切で、勝ったらもっと楽しいよな。
そして、岸本にかけられていた呪いは、南によって解かれた。
残り2分になってようやくバスケ自体に集中できるようになった。
今は北野さんのためだとか、目の前のプレー以外のことは頭にない。
そこから豊玉の反撃が始まり、ゴリの衝撃的なプレーも発生する。
しかし追い上げも一歩及ばず、湘北の勝利で試合は終わった。
スラムダンクで一番情の深いチームが豊玉
北野さんがクビになったことで生じた怨念が豊玉を、南を、岸本を、金平新監督を、苦しめた。
もちろん北野さんのせいではない。
その呪いは最後の最後で、北野さんによって解放された。残りの2分は幸せな時間だっただろう。
豊玉メンバーが最初からバスケに100%集中できるのは、どんな環境だっただろうか?
一番は北野監督指揮のもと。でも、それは叶わない。
金平新監督がその意思を継承すればできた?
それも無理だ。北野さんの代わりとして来た以上、変化が求められていた。
金平もラン&ガンをやったら北野さんでよかったことになる。
どうすればよかったのか、答えは誰にもわからないが、歯車が一つでもうまくかみ合えば豊玉には違った未来があったかもしれない。
ただ、これらのこじれが全て豊玉メンバーの情の深さに由来していることに、何とも言えない切なさがある。
最後に、豊玉メンバーに刺さった言葉
「バスケットは好きか?」
くしくも晴子が花道に放った言葉と同じだ。
もしかしたら、井上雄彦先生が一貫して伝えたいメッセージなのかもしれない。
それでは
カルボン酸太郎でした
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