スラムダンクの「愛知の星」こと諸星大には、隠された使命があった

スラムダンクに登場する愛和学院高校諸星大(もろぼしだい)

通称「愛知の星」に秘められた重大な使命について書いた。

愛知の星は描写は少ないのに存在感のある不思議なキャラクターだ。

ただ読者の間では噛ませ犬のように扱われがちである。

しかし私はとあるシーンから愛知の星の重要な存在意義を見出すことができた。

これは愛知の星にしかできない。

いや、ともすると作者はこのシーンのために愛知の星というキャラを創り出したのではないか?と思えるくらいだ。

前置きはこのくらいにして、どのシーンなのか紹介しよう。

愛知の星

完全版22巻

このシーンだ。

花道のリバウンドに対して「高い!!」と驚く様子。ここに愛知の星の全てが詰まっている。

そう、ここで「高い!!」と言うこと。

それが愛知の星に与えられた使命なのだ。

 

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愛和学院 初登場シーンは森重寛のかませ

愛知の星の登場シーンをおさらいしよう。

湘北高校が全国大会出場を決めた後、花道は全国レベルの選手を知るべく海南の牧、清田と共に愛知へ足を運ぶ。

牧が兼ねてより知り合いであった愛知の星の試合を見に行くためである。

しかし会場に着いた瞬間目にしたのは、タンカで運ばれる愛知の星だった。

愛知の星

完全版第17巻

コート上には全国4位の愛和学院相手に大暴れの選手がいた。

明朋工業1年 森重寛

ただならぬ存在感と強烈なプレイを目の当たりにし、花道は自然とライバル意識を持つ。

 

 

……え?諸星は?愛知の星は…?

 

 

これが初めて読んだ時の感想だ。

これでは確かにかませ犬のように思われても仕方ない。

復帰した愛知の星が奮闘する様子もあるが、やはり森重や明朋の監督の存在感に読者は心を奪われてしまう。

この時点での愛知の星に対するイメージは「まあ上手いんだろうけど、湘北が戦ったら勝つんだろうな、てか下手したら湘北と戦う前に他のダークホースに負けそう」といった感じか。

それでも大栄学園の土屋などと共に、全国の猛者のという立ち位置で物語は進む。

高い、いやそれより、速い

では肝心のシーンに触れる。

スラダン屈指の名シーンなので、ここが好きなファンも多いかと思う。

それもそのはず、ここには重要なエッセンスが凝縮されている。

愛知の星の台詞を説明する為に、まずこのシーンの重要性について語りたい。

ここは山王戦で花道がリバウンダーとしての素質を開花させた瞬間だ。

後半開始早々、山王伝家の宝刀ゾーンプレスで大量リードを奪われ、湘北メンバーの頭には負けの二文字がよぎる。

ただ一人、花道を除いて。

花道は「ヤマオーは俺が倒す」と宣言し、野辺との駆け引きに勝ってオフェンスリバウンドをとり、湘北待望の後半初得点をあげる。

しかし安西先生はまだ満足していない。その直後に訪れたのがこのシーンだ。

花道が一回ジャンプして野辺の上でボールを弾いた後、すぐさまもう一度ジャンプをしてボールを掴み取る。

安西先生も「それだ!」と喜び、河田や沢北、そして堂本監督も驚いている。

野辺からすると理解不能だ。

スラムダンク 野辺

なんで?

高さはもちろんの事、一度ジャンプしてからもう一度ジャンプするまでが異常に速い。

この身体能力こそが最も特筆すべき点だったのだ。

ド素人の花道が全国レベルのポテンシャルを持つことに気付かされる瞬間である。

この花道のリバウンドやゴリが吹っ切れたことによって湘北のリズムは回復し、三井の連続スリーによる怒涛の追い上げが始まった。

それを支えたのは紛れもなく、花道のリバウンドであった。

海南の高頭監督もこう言っている。

 

スラムダンク完全版第22巻

ではもう一度例のシーンを見てみる。
本来ひとつの台詞を三人に分けて表現している。

愛知の星「高い!!」
牧「いやそれより…」
堂本監督「速い!!」

そしてこの三分割した台詞だが、キャスティングがトンピシャなのだ。この三人以外はありえない。一つずつ説明していく。

山王監督・堂本の優秀さ

順番を前後して、まず「速い!!」について

ここで堂本監督に「速い!!」と言わせることで、監督の有能さを表現できる。

このリバウンド、一見すると愛知の星のように高さに目がいく。

しかし山王工業の堂本監督は流石である。花道の素晴らしさに一瞬で気づく。だからこの瞬間に「速い!」と言える。

その状況判断力の高さが、この指示につながる。

高校No.1センターの河田に、花道をマークするよう指示した。周囲は驚いていたが、これは英断である。

並の監督なら高頭の言っていたことに気づかず、ゴール下は花道の欲しいまま、下手すると逆転されていたかもしれない。

この試合の堂本監督の采配は素晴らしかった。監督含め山王工業は最高のパフォーマンスをした。

その上で湘北は勝利した。この文脈が、山王vs湘北が最高に盛り上がり、多くの感動を生んだ要因の一つと言えよう。

次に「いやそれより…」


この言葉も神奈川No.1プレイヤーの牧にしか言えないだろう。

花道のリバウンドは確実に山王戦で開花した。神奈川県予選の時にはまだなかった。

牧は決勝リーグの緒戦で花道と戦った、つまり花道が成長していく様子を一番見てきた人間である。

だから驚きと同時に、恐怖を感じている。

自分が戦った時にゴール下やジャンプシュートがあったら、リバウンド力があがってたら、勝負はわからなかったかも知れないと…

そんな牧だから「いやそれより…」と言えるのだ。その額には冷や汗をかきながらも。

そして最後に「高い!!」


そう、我らが愛知の星の台詞だ。

なんかもうここで「高い!!」と言うだけで、噛ませ犬感が増してしまう。

「お前わかってねえな〜すごいのは高さよりも速さなんだよ」と思ってしまう。

だが、そういう印象を抱いてはいけない。

初登場シーンや堂本監督と牧の話をした後だからなおさら舐めてしまうが、この発言は全く悪くない。というか仕方がないのだ。

何故なら愛知の星は全国大会編からの登場であり、花道のプレイをほとんど知らないからだ。

そして確かに花道のジャンプは高いのだから、驚くことに無理はない。

むしろ同じ立場(全国大会編からの登場)なのに見抜く堂本監督が素晴らしいのだ。

つまり速さに気づいた堂本監督の有能さを表現するためには、同じ立場かつ、バスケが上手い人間に「高い!」と言わせる必要がある。

これは観客には務まらない。神奈川の選手でもダメだ。

これを満たすのは、そう

愛知の星しかいない。

「高い!!」

愛知の星はこの台詞を言うために存在した。

いや、この台詞を言えるような存在として育て上げられた。

全ては堂本監督を引き立たせ、ひいては花道の素晴らしさを表現するためだ。

この瞬間のためだけに、厳しい練習を毎日頑張り、森重に蹴散らされ、全国大会へと進んだのだ。

愛知の星が優勝

これが愛知の星というキャラの全てである。

え?結局、諸星はかませ犬だって?

確かに愛知の星の愛和学院はインターハイで優勝もしていない。(同じブロックの海南が2位)

けれど大事なことを忘れていないか?

湘北が山王工業に勝った後嘘のようにボロ負けした相手はどこだ?

そう、愛和学院だ。

作者はかませ犬化を防ぐべく、最後の最後で仕立て上げたのだ。

重大な使命を果たした愛知の星に対する最大の敬意であろう。

それでは
カルボン酸太郎でした

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